コリン・バレット氏と辰己博実氏が対談

身体障害という苦難を乗り越えてきたコリン・バレット氏と辰己博実氏。どんな苦難な状況でも新しいことにチャレンジして道を切り拓く熱い志をもった両氏の対談が実現しました。

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苦難を乗り越え前に進んでいくバレット氏と辰己氏

コリン・バレット氏

コリン・バレット氏はつい5年前までは何事もなくごく普通の生活を送っていました。しかし5年前、病魔と不運がバレット氏をどん底まで引きずり落としました。腸に穴が空いてしまう穿孔という病気を発症、その後病院による診断ミスも重なり9日間の昏睡状態、4週間もの間ICU(集中治療室)で治療を受け、233日もの入院生活と25回もの手術を受けました。その結果、一命をとりとめたものの彼女の両足と右腕、そして左腕のほとんどの切断を余儀なくされました。

しかし彼女の中に人生を「諦める」という選択肢はありませんでした。壮絶な治療、リハビリ、訓練の末、徐々に歩くことができ始め、水泳、そして旅行を楽しめるようにまで回復しました。現在はどんな状況でもチャレンジするという人生のスローガンのもと、様々な場所へ足を運びアドベンチャーを求めて旅を続けています。

辰己 博実氏

辰己 博実氏は徳島県生まれ。ニセコのパウダースノーに惹かれ北海道でスノーボードをするようになり、1998年頃からニセコに篭もるようになると、冬はニセコのバックカントリーガイド、夏は四国とニセコでラフティングガイドやセーフティカヤックの仕事をする生活に。スノーボード、ラフティング、スキー、サーフィンなどを一年中行いアクティブな生活を送っていましたが、2008年キッカーでランディングミス、脊髄を損傷、腰より下を動かすことができなくなり、車椅子で行動する生活を余儀なくされます。

しかし、彼も諦めることなく怪我をする前の情熱を持って、新しいチャレンジに向かって突き進んでいきます。「障害があってもここまでできる。」この言葉を伝えていくため、冬はチェアスキー、夏はカヤックなどの上級者コースを楽しみ、ロングボードに乗って競うフラットウォーターレースでは2度のワールドカップを経験。チェアスノーボードでも世界大会で賞を受賞するほど。

過去最近の表彰歴
2015年 パラカヌースプリント海外派遣選考会 2位 日本代表。 (4年連続日本代表入り)
2015年 アメリカ マウントバチュラーで開催されたダークセンダービー、チェアスキー部門 優勝
2016年 パラカヌースプリント海外派遣選考会 優勝

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木ニセコホテルロビーにてコリン・バレット氏と辰己 博実氏の対談が実現しました。

友人がスノーボードをしたいということでニセコを訪れ、木ニセコホテルに宿泊していたバレット氏。辰己氏との対談が叶ったのは、彼女がニセコに到着するとスノースポーツに挑戦したいという欲求にかられ、木ニセコホテルのコンシェルジュにチェアスキーはないかと尋ねたのが始まりでした。辰己氏のポスターを見かけたスタッフが連絡を取り付け、辰己氏にホテルに来ていただくことになり、今回の対談が実現しました。

(以下、敬称略)

バレット:今朝あなたのFacebookを拝見しました。とても素晴らしいです!チェアスキーは長い間続けているんですか?

辰己:チェアスキーを始めて今年で8年になります。スノーボードをして着地を失敗したのが2008年。

バレット:そうですね。今朝あなたがどうやってスノーボードの舞台に帰ってきたかを知って感動しました。私自身2012年に体調が非常に悪く病院に行きましたが、診断ミスもあり、それが原因で昏睡状態に陥りました。それにより敗血症を発症し両手足が壊死、切断を余儀なくされました。33週間ものあいだ病院で過ごしましたが、それでも様々な人に支えられ、考えられないような素晴らしいことがたくさん起こりました。いまは昔よりもずっと幸せかもしれなません。

辰己:そうですね、同じように思います。

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通訳を介し会話を楽しむ2人

バレット:怪我をする前からスキーをしていたのですか?

辰己:はい、もちろん!雪が好きなんですよ。あと川もレースも好きです。

バレット:(笑)とってもスポーティーですね!辰巳さんは日本代表ナショナルチームのメンバーとお聞きしました。近いうちに参加する大会はありますか?

辰己:ありますよ!3月末にはカヤックの海外派遣選考会があって、それに勝てれば8月にチェコのワールドカップに参加することが出来ます。それまでは四国に滞在してひたすら練習する予定です。

バレット:とても忙しいですね!でも楽しんでるようでなによりです。私は過去にスキーをしたことがありません。私はニュージーランドで生まれ、現在はオーストラリアに住んでいます。ニュージーランドにいた頃、いつもスキーをしたいなと思っていましたが結局することはありませんでした。いつかチェアスキーに挑戦できる日がくればいいと思っていますが、私の足は去年手術をしたばかりで、強い衝撃はできるだけ避けなければいけません。運動にはいつも細心の注意が必要なんです。

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義足を見せながら説明をするバレットさん

バレット:この義足は直接私の足に埋め込まれていて、骨とつながっています。かつては色々なタイプの義足を持っていたのですが、どれも誰かのアシスタントなしでは装着ができません。なので最終的にこのタイプの義足にしました。

辰己:その義足でスキーはできますか?スキーなどの運動に向いてますか?

バレット:おそらく出来ないでしょう。このモデルは強い衝撃に対して耐性がそれほど高くありません。立ったままのスキーは厳しいかもしれませんが、チェアスキーなら大丈夫かと思っています。

辰己:過去に会った人で、確かカナダのチームメンバーに片足のないスノーボーダーがいました。もしアウトリガーというスティックを持つのが難しいのであれば、それを必要としない普通のスキーをしてもいいのではないかと思います。

バレット:去年の7月手術を受けたばかりなのですが、同じ手術を受けて特別なソケットを使ってスポーツをする方がいると聞いたことがあります。私も近い将来同じようにできえばいいなと思っています。

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バレット:近いうちに参加するスキーの大会はありますか?

辰己:アメリカのオレゴン州で開催されるダークセンダービーに出場します。この大会は同じように障害を持ったダークセンさんのためにチャリティーをしようということで始まった大会で、だいたい毎年行われています。ちなみに前回の大会ではチェアスノーボードで参加して優勝しました。

バレット:すごいですね!チェアスキーとチェアスノーボード、辰己さんがどちらもするということは知っています。どちらが簡単にできると思いますか?

辰己:チェアスノーボードのほうがちょっと難しいと思います。スノーボードの方が安定するけど幅が広い分ターンをするのが大変なんです。怪我をする前まではスノーボーダーだったので、チェアスキーに挑戦してみたけどカーブのイメージが全部スノーボードをするときのイメージでした。それもチェアスノーボードをやり始めたきっかけの1つです。(ダークセンダービーの写真を見せながら)これがダービーの時の写真。バンクドスラロームに挑戦してました。

バレット:すごい!これ、私がやりたかったことです!ニセコエリアでできますか?

辰己:ニセコエリアではありませんが、ここからそう遠くない場所のスキー場でチェアスキーの貸出を行っている場所がありますよ。ただ、突然過ぎると準備ができないかもしれません。特にサイズの問題が大きいと思います。装備は高いので、そこまで豊富なサイズは取り揃えてないのだと思います。とりわけ日本人は小さいですから、バレットさんのサイズに合うかどうかはちょっとわかりません・・・

バレット:それでしたら私の足を取り外して身長を下げてもらいましょう(笑)

バレット:私はいままで様々なエクストリームスポーツに挑戦してきました。チャリティー長距離ウォーク、スカイダイビング、バンジージャンプ。極めつけにはサメと一緒に泳いだりしました。

辰己:ケージの中でサメと!?

バレット:私の友達には「君はもうサメに食べられるところないから安全だね」とジョークを言われました。(笑)

辰己:(笑) バンジージャンプは手術の後でやったのですか?

バレット:そうですね。先程言ったアクティビティは全て手足がなくなってから挑戦したものです。もちろんバンジージャンプの際は足につけれませんから特殊な装備をつけてのチャレンジでした。泳ぐときはシュノーケルとフィンさえつければ大丈夫です。

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様々な器具を紹介する辰己氏。

辰己氏とバレット氏はお互いのアクティビティーをしばらく話した後、辰己氏は器具を見せてくれました。

辰己氏はGentemstickのスノーボードをカスタマイズし、チェアスキー用に変えていました。チェアスノーボード、チェアスキーではアウトリガーと呼ばれる2つのスティックでバランスを取りながら滑り降ります。

お二人は初対面でしたが対談を楽しんでもらえたようで、私たちももこのようなお手伝いができて嬉しく思いました。その後チェアスキーを貸し出しているスキー場に連絡を取ってみましたが、残念ながら3月ということですでに運営を終了していました。その後バレット氏はニセコを後にし、北海道での小旅行を楽しんだということです。

次回来られる際にはチェアースキーに挑戦できることを願っています。ニセコでお待ちしております。

そして親身に相談に乗っていただいた辰己さん、ご協力誠にありがとうございました。今後のご活躍とご健勝をお祈りいたします。